#013:「ル・コルビュジエの建築──その形態分析」


ジェフリー・H.ベイカー=著、中田節子=訳
初版1991年(原書初版1984年)
評者=越後島研一
掲載=『SD』1991年10月号


コルビュジエ作品研究の最初の手掛かりとして

リチャード・マイヤーがサヴォア邸を詳細に調べ、作成した模型を毎日眺めていたという話は有名である。ワルター・グロピウスは、一般の建築家は、全生涯をかけねばコルビュジエを理解できない、という意味のことを語っている。実際、8巻2000頁に及ぶ作品集は、実に多様な提案に溢れ、まとまった理解を困難にしている。さらに多くの著作や絵画、彫刻まで残されている。建築家にとっては、実例に則した創作論的研究が、最も相応しくまた実り多いだろう。本書もそうした一冊で、初期を中心に15余りの作品が、詳細に分析されている。元来文章では表現し難い問題を、多くの図版によって語らせようという意図が見られる。コルブ自身が好んだという、横長の判型も適切である。特に、多数のアクソメ図が新に描き起こされ、それらを眺めているだけでも、様々な発見が得られる。

著者自身の、形態に関する具体的指摘は、きわめて初歩的な問題から始まっているために、今後同種の作品研究を志す学生等にとっては、建築をどう見、どう理解するかについての、入門的な手掛かりを与えてくれよう。建物をじっくりと眺めずに、概略的な印象のみから論じていた人々にとっては、具体的に注意深く作品を視る習慣を与えてくれよう。著者の記述の中にも、意外な興味深いものも見出せる。また、最初期の、作品集第1巻にも収録されていない、シトロアン住宅以前の作品、ヴィラ・シュオブをはじめとする6棟の住宅と二つの計画案が、詳細に紹介されている点は、資料的に優れている。実現作品については、敷地状況を詳しく調べてあって参考になる。巻末には、パリにある主要作品の地図と、見学者のために、公開の状況まで示されていて便利である。

具体的内容は、作品を「図解で形態を切り刻み」、それにもとづく「構成原理」に注目する、とまず序文で語られている。続いて「コア」や「線形」等の初歩的な事項が図示されて、すぐに実際の分析に写っている。分析方法についての前提的説明が不足している。作品の概略的輪郭を、「基本形態の複合」として理解することと、「軸」への注目を主たる手掛かりとし、「人間の動き」と「敷地条件への対応」等が、細かく論じられている。最後に「分節のシステム」と題して結論的な事項が列挙される。

全体に方法的一貫性に欠け、考察にも深まりが足りない。その点、形態分析としては低い段階に留まっている。著者自身、「コルビュジエが建築を、いかにデザインしたかを示す試みではない」と書いている。であればこそ、ひとつの形態的解釈の型を提案する試みとして、もっと意図的であるべきだし、創作論的な飛躍や体系化への方向付けも欲しい。しかし、一般に形態分析は、まだ初期の段階にあって、方法的厳密性にこだわることは、かえって豊かな研究を損なうともいえる。この種の出版が増え、様々に批判されつつ発展してゆくことが望まれる。

(えちごじま・けんいち/建築家)

「ル・コルビュジエの建築──その形態分析」の詳細はこちら